「ワクチンが原因とは断定できない」は本当に十分?|接種後の体調不良と因果関係を考える

新型コロナワクチン接種後の体調不良と因果関係を考えるイメージ画像。「ワクチンが原因とは断定できない」は本当に十分?という文字と、ワクチン瓶、注射器、疑問符、体調不良を思わせる女性が描かれている。

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新型コロナワクチンの接種後に、体調を大きく崩した人がいます。

そのような人に対して、ときどき、

「ワクチンが原因だとは断定できない」

という言葉が投げかけられます。

もちろん、この言葉そのものは科学的に間違っているとは限りません。

実際、接種後に起きた症状=ワクチンが原因とは限らないからです。厚生労働省も、接種後に生じた症状について、ワクチンとの関係があるのか、偶発的なものなのか、他の原因によるものなのか分からない事例があると説明しています。

しかし、ここで注意したいのは、

「原因だと断定できない」ことと、「ワクチンは関係ない」ことは同じではない

という点です。

この記事では、感情的に「ワクチンが悪い」と決めつけることも、逆に「因果関係不明だからワクチンは無関係」と片付けることもせず、科学的に因果関係を考えるとはどういうことなのかを整理します。

まず、「接種後に起きた」と「ワクチンが原因」は違う

これは非常に重要です。

例えば、100万人がワクチンを接種したとします。

その後の数日、数週間、数か月の間には、

  • 心筋梗塞
  • 脳卒中
  • がん
  • 感染症
  • 自己免疫疾患
  • その他の病気

などが一定数発生します。

これは、ワクチンを接種していなくても起こり得るものです。

したがって、

「ワクチンを打った後に病気になった」

という時間的な順番だけでは、

「ワクチンによって病気になった」

とは証明できません。

WHOも、ワクチン接種後に起きた医学的な出来事をAEFI(予防接種後有害事象)として扱い、必ずしもワクチンとの因果関係を意味しないとしています。世界保健機関

ここまでは非常に合理的な考え方です。

しかし「因果関係が証明できない」=「影響がない」ではない

ここが今回の記事で最も重要なポイントです。

科学では、

原因であることを証明できない

という結論と、

原因ではないことが証明された

という結論は違います。

例えば、ある人がワクチン接種後に体調を崩したとします。

その人について、

「ワクチンが原因だと証明できない」

という結果になったとしても、

それだけで、

「ワクチンが体に何の影響も与えていない」

と結論することはできません。

WHOの因果関係評価でも、情報不足などによって「因果関係を評価できない」ケースと、「因果関係がない」と判断するケースは区別されています。世界保健機関

つまり、

「分からない」

と

「ない」

は別なのです。

厚生労働省自身も「因果関係を評価できない」という分類を設けている

この点は非常に興味深いところです。

厚生労働省の副反応疑い報告における評価では、概ね次のような考え方が使われています。

  • α:因果関係が否定できない
  • β:因果関係が認められない
  • γ:情報不足等により因果関係が評価できない

つまり、

「因果関係がない」

と

「情報が足りず判断できない」

は、行政上も明確に区別されています。

これは非常に大切なことです。

「因果関係不明」という言葉を聞いたとき、

「ワクチンとの関係は否定された」

と理解してしまうのは正確ではありません。

むしろ、

「現在ある情報だけでは、因果関係について十分な判断ができない」

という意味の場合があります。

「接種しなければ起きなかった」は、個人については証明が難しい

一方で、ここは冷静に考える必要があります。

接種後に重い症状が出た人について、

「ワクチンを接種しなければ、その症状は絶対に起こらなかった」

と証明することも非常に難しいのです。

なぜなら、現実には、

同じ人が「接種した人生」と「接種しなかった人生」を同時に経験することはできない

からです。

これは医学・疫学でいう反実仮想の問題です。

例えば、

  • 接種した場合 → 病気になった
  • 接種しなかった場合 → 本当はどうなっていたのか?

という比較は、同一人物について直接観察できません。

したがって、個人の体験だけで、

「ワクチンが100%原因だった」

とも、

「ワクチンは100%無関係だった」

とも簡単には言えません。

では、科学者はどうやって因果関係を調べるのか?

ここで重要になるのが、個人の体験だけではなく、集団のデータを見ることです。

WHOの因果関係評価では、

  • 時間的な関係
  • 発生頻度
  • 他の研究との一致
  • 生物学的な妥当性
  • 他の原因の可能性
  • 既知の副反応との一致
  • 疫学的な関連

など、複数の情報を総合して評価します。Iris

つまり、

「接種した後に具合が悪くなった」

だけで終わらせないのです。

重要なのは「時間」だけではない

例えば、

「ワクチンを接種して3日後に体調を崩した」

という情報があったとします。

これは重要な情報です。

しかし、それだけでは因果関係は証明できません。

次に、

同じような症状が、接種した人に通常より多く発生しているか?

を調べます。

さらに、

接種後の特定の期間に集中しているか?

を調べます。

そして、

別の国・別の研究でも同じ傾向が出ているか?

を調べます。

さらに、

ワクチンによって、その症状につながる生物学的な仕組みが考えられるか?

も検討します。

このような積み重ねによって、因果関係の可能性を評価していきます。

WHOも、ワクチン安全性について、個々の症例だけでなく疫学的研究などを用いて安全性シグナルを検証する必要があるとしています。世界保健機関

「ワクチンが体に何らかの働きをする」は、その通り

ここは言葉を慎重に分ける必要があります。

ワクチンは、そもそも免疫反応を起こさせるために投与されるものです。

したがって、

「ワクチンは体内で何らかの働きをする」

ということ自体は当然です。

問題は、

その免疫反応などが、特定の症状や病気を引き起こしたのか

という次の段階です。

ここには大きな違いがあります。

例えば、

ワクチンが免疫系に作用する
↓
接種後に何らかの反応が起きる
↓
その反応が特定の病気につながった

という仮説を考えることはできます。

しかし、

「そういう仕組みが考えられる」だけで因果関係が証明されたことにはなりません。

WHOも、生物学的にもっともらしいメカニズムは因果関係を支持する材料にはなるものの、それだけで因果関係を証明するものではないとしています。Iris

だからこそ「直接原因」という言葉にも注意が必要

病気には、

直接原因だけでは説明できないケース

があります。

例えば、

A → B

という単純な関係だけではなく、

A → 体の変化 → 別の要因 → 症状

という複雑な経路も考えられます。

そのため、

「ワクチンが直接その病気を発生させた証拠がない」

ということだけから、

「ワクチンは何の影響も与えていない」

と結論することもできません。

一方で、

「何らかの影響を与えたに違いない」

と断定することもできません。

科学的には、その間にある「可能性を評価する」作業が重要になります。

実際にワクチンとの因果関係が認められている健康問題もある

ここも重要です。

「ワクチンの副反応は全部、因果関係不明」というわけではありません。

WHOは現在、COVID-19ワクチンについて、例えばmRNAワクチン接種後の心筋炎・心膜炎や、アデノウイルスベクターワクチンに関連する血小板減少を伴う血栓症(TTS)など、因果関係が確立された特定の有害事象を挙げています。世界保健機関

これは非常に大切なポイントです。

医学では、

「ワクチンは安全」

あるいは、

「ワクチンは危険」

と一括りにするのではなく、

どのワクチンで、誰に、どの症状が、どの程度の頻度で起こるのか

を調べます。

日本には「健康被害救済制度」もある

日本には予防接種による健康被害を救済する制度があります。

厚生労働省は、予防接種後に健康被害が生じた場合、一定の要件のもとで健康被害救済制度による給付を行っています。

さらに重要なのは、

副反応疑い報告制度と健康被害救済制度では、因果関係の考え方が異なる

ということです。

厚生労働省は、健康被害救済制度では「厳密な医学的因果関係までは必要とせず」、接種後の症状が予防接種によって起こったことを否定できない場合も対象とする考え方を示しています。

そのため、副反応疑い報告制度で因果関係を評価できないとされたケースでも、健康被害救済の対象になる場合があります。

これは、

「因果関係不明=ワクチンとは無関係」ではない

ということを考えるうえで、非常に重要な制度上の事実です。

では、接種後に体調を崩した人に何と言えばいいのか?

私は、ここがこの記事で最も大切な部分だと思います。

例えば、身近な人が接種後に体調を崩したとします。

その人に対して、

「ワクチンが原因とは証明されていないよ」

と言うだけでは、その人の苦しみを十分に受け止めているとは言えません。

かといって、

「絶対にワクチンが原因だよ」

と決めつけるのも科学的ではありません。

より適切なのは、

「接種後に症状が出たという事実は大切に扱い、そのうえでワクチンとの因果関係を医学的・疫学的に調べていこう」

という姿勢でしょう。

これは、

被害を否定しないことと、原因を断定しないことを両立させる

考え方です。

「因果関係不明」という言葉を正しく理解する

整理すると、次のようになります。

言葉意味
接種後に発症接種より後に症状が起きた
副反応疑いワクチンとの関係が疑われるため報告・検討されている
因果関係不明現時点の情報では判断できない
因果関係が否定できないワクチンが原因である可能性を否定できない
因果関係が認められない現時点の医学的評価では因果関係が認められない
因果関係がある複数の証拠から因果関係が支持・確立されている

特に、

「不明」と「否定」は違います。

ここを混同しないことが重要です。

一方で「何でもワクチンのせい」にするのも科学ではない

この記事では、ここもはっきり書いておきたいと思います。

接種後に起きた病気について、

「ワクチンを打った後だから、全部ワクチンが原因だ」

と考えるのも正しくありません。

厚生労働省も、接種後の症状については、原疾患との関係、薬理学的観点、時間的経過などを含めて総合的に評価しています。

WHOの評価方法でも、

  • 基礎疾患
  • 他の薬
  • 感染症
  • 偶発的な発症
  • 接種方法
  • 時間的関係
  • 生物学的な可能性

などを含めて検討します。世界保健機関

つまり、

ワクチン側の可能性も、ワクチン以外の可能性も、両方調べる

のが科学です。

本当に必要なのは「犯人探し」ではなく「リスク評価」

ここまで考えると、問題の本質が見えてきます。

本当に知りたいのは、

「この人の病気の犯人はワクチンか?」

だけではありません。

社会全体として重要なのは、

「ワクチンによって、どのような健康リスクが、どのくらい増えるのか?」

です。

例えば、

「100万人接種すると、特定の病気が何人増えるのか」

という問題です。

これなら疫学的に検討できます。

そして、

ワクチンによって防げる重症化・死亡のリスク

と、

ワクチンによって生じる可能性のある健康被害のリスク

を比較できます。

これは非常に重要な考え方です。

「安全か危険か」の二択で考えない

医療では、

100%安全

というものは基本的にありません。

一方、

少しでもリスクがあるから危険

という考え方も適切ではありません。

大切なのは、

利益とリスクを比較すること

です。

WHOも、2026年の資料で、COVID-19ワクチンについて重篤な有害事象は非常にまれである一方、特定の有害事象について因果関係が確立されていることを示しています。そして、接種による利益とリスクを集団ごとに評価するという考え方を示しています。世界保健機関

つまり、

「リスクがゼロか?」

ではなく、

「どんなリスクが、どのくらい存在し、それに対してどんな利益があるのか?」

と考えるのが科学的です。

接種後に体調を崩した人に必要なのは「否定」ではなく「調査」

もし実際に接種後から体調不良が続いているのであれば、

「因果関係が証明できないから仕方ない」

で終わらせるべきではありません。

重要なのは、

  1. いつ接種したのか
  2. どのワクチンだったのか
  3. 何回目の接種だったのか
  4. いつから症状が出たのか
  5. どのような症状なのか
  6. 以前から同じ症状があったか
  7. 他の病気や薬はないか
  8. 検査結果はどうだったか
  9. 接種後に同様の症状が報告されているか
  10. 医学的にどのような因果関係が考えられるか

を整理することです。

個人の経験を尊重しながら、科学的な検証につなげていく。

それが最も建設的な方法です。

まとめ|「分からない」は、思考を止める言葉ではない

「ワクチンが原因とは断定できない」

この言葉は、科学的には必要な慎重さを含んでいます。

しかし、

「原因とは断定できない」
↓
「だからワクチンは関係ない」

と飛躍してしまうと、科学的な推論としては不十分です。

逆に、

「接種後に発症した」
↓
「だから絶対にワクチンが原因だ」

とすることもできません。

本当に必要なのは、その中間にある、

「何が分かっていて、何が分かっておらず、どの程度ワクチンとの因果関係が疑われるのか」を丁寧に調べること

です。

そして何より、

「因果関係が証明されていない」という言葉によって、実際に苦しんでいる人の症状まで否定してはいけません。

症状が存在することと、その原因が何であるかは別の問題です。

だからこそ、

症状は症状として受け止める。
原因は原因として科学的に調べる。

この2つを分けて考えることが大切なのではないでしょうか。